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セイラ出撃!(3) [ガンダム(short novel)]

(2)は、こちらから・・・

 ルドン中尉は、不用意に直進機動した赤い奴に射弾を送り込んだ。青い奴の後方にいるせいで自分を安全だとでも思っていたのだろう、それは、明らかに戦場では慎まなければならない類の機動だった。しかし、残念なことにそれを見咎める味方は自分しかいなかった。
 ダダダッ!
 ルドン中尉は、トリガーボタンを数瞬押し込んだ。曳航弾が混じり、射弾が赤い奴に吸い込まれる。機体を不規則に回避させながらルドン中尉は、モニターの中の青い奴の機動を追いかけた。もちろん、もう1機の赤い奴の機動も目の端で追う。
 赤い奴が、ビームを2撃寄越してくるとくるりと機体を翻した。おそらく、被弾したもう1機の支援に回るのだろう。
「舐めたまねをしてくれる・・・」
 それは、1対1で充分だと宣言されたに等しかった。
 少なくとも1つの部隊を任され、エースと呼ばれる自分に対抗するのがたった1機で充分だと判断された、ルドン中尉にはそれが許せなかった。モニターの残弾数に目をやる。まだ60発近くが残されていたが、ルドン中尉は、機体を後方へと下げながらマガジン交換をさせた。
「ふん、全滅とはな・・・」
 ルドン中尉は、リースフェルト中尉の隊の最後の識別信号が消えるのを確認してひとりごちた。
 もはや、どうなるものでもなかった。ルドン中尉は、この空間が自分の最後の空間になることを認識していた。今は、もう生き残れるかどうかではなく、この険呑な相手を1機でも減らすことが出来るかどうか?それが、ルドン中尉の最後の意識になっていた。

「ハヤト!」
 セイラは、サイドモニターに突如として小さく弾けた爆炎を見て思わず叫んだ。敵は、前方に位置するセイラのジムではなく、後方に位置していたハヤトのガンキャノンを狙い撃ったのだ。敵の一連射は、そのうちの2弾までがハヤトのガンキャノンに直撃をした。
「うわぁああああぁっ!」
 ハヤトの慌てふためく声が、ヘッドセットを通じて耳朶を打つ。絶叫に近い声だろうが、音量調節されたヘッドセットには抑揚のない声でしか届かない。それでもハヤトの狼狽は手に取るように伝わる。
「カイ!ハヤトを!!」
 それだけを言うとセイラは、機体をグンッ!と加速した。自分だけで押さえ込める相手とは思えなかったが、ハヤトを一人で下がらせる気にはなれなかった。空域が、完全にクリアになったかどうかに確信が持てなかった。
 ザクマシンガンの1発や2発でガンキャノンが致命傷を負うとは思わなかったが、これ以上の被弾は危険だった。サイド7では、至近距離から砲弾を浴びせられて複数のガンキャノンがザクマシンガンによって失われている。ガンキャノンは、ガンダムやジムよりも重装甲モビルスーツではあったが、永遠の被弾に耐えるわけではなかったし、全ての箇所が重装甲というわけでもなかった。
「任されて!セイラさん、無茶はダメだよ!」
 カイが、メガビームを乱射しながらハヤトのフォローに入る。
 セイラは、大きめの岩塊の陰に入り込もうとするザクにメガビームを送り込みながら距離を詰めた。2度と敵が、後方のカイやハヤトのガンキャノンにちょっかいを出そうと考えないように。
 そして、正対した敵にビームを矢継ぎ早に送り込んだ。
「!?」
 しかし、そのビームは正対しているはずのザクに命中しなかった。至近を通過してはいるが、それでさえ機体に干渉するほどではなかった。
「あたらない?」
 焦りの感情が、セイラを蝕み始めた瞬間、ザクマシンガンの砲口が短く明滅した。
「はっ!」
 射撃に夢中になるあまり、回避機動が疎かになったことに気がつき、一瞬早くシールドを差し出し、直撃を躱す。直後、シールドに一撃、サイドモニターに曳航弾が走るのと同時に更に一撃がシールド上ではじけ、不意にシールドの上部が千切れ飛んだ。
「くっ・・・」
 思わず歯を食いしばり、息が漏れる。フットレバーを思い切りよく踏み込む。メインスラスターが反応良くその推力を全開にし、ジムを飛び上がらせるように上昇させ、シートに沈み込ませるように強烈なGが、セイラのしなやかな体に負荷を掛ける。鉛のように重くなった腕を操縦桿からはがされないようにしっかり固定し、あまつさえトリガーに触れて敵の進撃路へとビームを放つ。
 ベテランのパイロットですら驚きを隠さないと思われる機動をセイラは、実現させていた。もう誰も傷つけさせない!セイラの強固な意志がそれを可能にさせていた。

 ルドン中尉は、ザクを敵に対して正対させると機体各所に装備されたサブスラスターをフルに使って機位を常に、そして不規則に変えた。ザク同士の模擬戦闘でも直進機動は戒められるべき機動だったが、ザクマシンガンの弾速であれば発射の瞬間に機位を変えることで直撃を逃れることが可能だった。しかし、メガビーム相手では直進機動は、ほんの僅かな時間でさえ命取りだった。
「喰らえッ!」
 ルドン中尉は、至近を走り抜けるメガビームの存在を無視し、射撃をした。どのみち、直撃した瞬間に勝負は決まるのだ。むろん、射撃しながらも機位を変える。
 ルドン中尉は、常よりも長めに射撃ボタンを押し込んだ。
 2発を直撃させた赤い奴が、もう1機に守られるように後退していくのを見ていたからだ。連邦のモビルスーツは、ザクより余程頑強に作られているらしかった。青い奴は、赤い奴よりはほっそりとした作りではあったが、それを補うように手には自在にかざせる盾を装備していた。
 案の定、敵は盾の陰に隠れた。
 1発目が命中し、2発目がほぼ同じ箇所に命中した瞬間盾が千切れた。
(同一箇所に集弾出来れば・・・)
 ルドン中尉は、一気に撃破を試みるべくザクマシンガンのトリガーを更に押し込んだ。
「ちっ!」
 だが、敵にそれ以上直撃を与えることは出来なかった。青い奴は、機体を上へと跳ね上げたのだ。パイロットに随分負担を掛けたに違いないと思える機動のせいでルドン中尉の放った射撃は、全てが無駄になった。発射ボタンを押し込んだまま砲口を振ったが、青い奴の機動はやはりザクを遙かに凌駕していた。模擬戦闘を通じて身体に覚え込ませたことが逆効果になった。
 しかも、回避しながら放たれてきたビームが、ルドン中尉にも回避を強制させる。想像以上の加速、ビーム火器での反撃、それらがルドン中尉の射撃を不安定なものにさせ、それ以上の直撃を得られなかった。
 更に悪いことには、リースフェルト中尉のモビルスーツ隊を壊滅させた2機が、戦闘に加入してきた。青い奴にこれ以上の被弾を許さないという強固な意志が感じ取れる牽制射撃が、送り込まれてきた。
「ダメだ・・・」
 ルドン中尉から急速に意志が失われていった。
 軍に入ってから一度たりとも感じたことのなかった脱力感、虚無感、そういった類の負のエネルギーがルドン中尉を覆い尽くした。
 ゴウッ!
 ノーマルスーツを着た身体が感じることのないはずの豪風にさらされた・・・
 それが、ルドン中尉が感じた最後の感覚だった。痛痒は一切感じなかった。

「アムロ?」
 セイラは、他のザクと同じように爆発をして、消えていくザクをモニターに見ながら呟くように言った。ガンダムが、スッレガー中尉のジムを遙か後方に置き去り接近しつつあった。まだ、かなりの距離があるが、そこからアムロは、ビームを直撃させたのだ。
「大丈夫ですか?セイラさん!」
「ええ、大丈夫よ。機体には、被弾しなかったわ。心配しなくってよくてよ・・・」
 そして、声には出さずに続けた。
(彼は、戦いを止めていたのよ・・・)
 セイラは、自身を危ういところへ追い込んだザクのパイロットの最後の感情を読み取れたような気がしていた。いっそ、最後まで憎悪を迸らせ続けてくれていれば良かったのに。そうすれば、こんな後味の悪い感情を感じずに済んだのだ。
 確かに、アムロが駆けつけていなければ自分自身がもっと危うくなっていたに違いないことは理解できていた。彼は、紛れもなく危険なパイロットだった。あのランバ・ラルやマチルダ中尉を戦死させた新型機のパイロットと同じ種類のパイロットだったのは間違いない。
(でも、彼は戦いを止めていたわ・・・)
 最後にセイラは、もう一度同じ思いを心の中だけで呟いた。
(生身の戦いだったら・・・顔が見えていたら・・・)
 そうしたら、自分たちは彼を殺さずに済んだかも知れない。
「帰還しますよ?セイラさん」
 セイラの中に何かを感じたのだろう。アムロが、言葉尻を少し変える。
「了解、アムロ」
 そう言うとセイラは、頭の中から感傷的な部分を無理矢理に追い出した。
 戦いを止めたからといって彼が生きながらえることができないことが理解できたからだ。そう、ランバ・ラルのように。戦争とは理不尽なものなのだ。

fin

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