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セイラ出撃!(3) [ガンダム(short novel)]

(2)は、こちらから・・・

 ルドン中尉は、不用意に直進機動した赤い奴に射弾を送り込んだ。青い奴の後方にいるせいで自分を安全だとでも思っていたのだろう、それは、明らかに戦場では慎まなければならない類の機動だった。しかし、残念なことにそれを見咎める味方は自分しかいなかった。
 ダダダッ!
 ルドン中尉は、トリガーボタンを数瞬押し込んだ。曳航弾が混じり、射弾が赤い奴に吸い込まれる。機体を不規則に回避させながらルドン中尉は、モニターの中の青い奴の機動を追いかけた。もちろん、もう1機の赤い奴の機動も目の端で追う。
 赤い奴が、ビームを2撃寄越してくるとくるりと機体を翻した。おそらく、被弾したもう1機の支援に回るのだろう。
「舐めたまねをしてくれる・・・」
 それは、1対1で充分だと宣言されたに等しかった。
 少なくとも1つの部隊を任され、エースと呼ばれる自分に対抗するのがたった1機で充分だと判断された、ルドン中尉にはそれが許せなかった。モニターの残弾数に目をやる。まだ60発近くが残されていたが、ルドン中尉は、機体を後方へと下げながらマガジン交換をさせた。
「ふん、全滅とはな・・・」
 ルドン中尉は、リースフェルト中尉の隊の最後の識別信号が消えるのを確認してひとりごちた。
 もはや、どうなるものでもなかった。ルドン中尉は、この空間が自分の最後の空間になることを認識していた。今は、もう生き残れるかどうかではなく、この険呑な相手を1機でも減らすことが出来るかどうか?それが、ルドン中尉の最後の意識になっていた。

「ハヤト!」
 セイラは、サイドモニターに突如として小さく弾けた爆炎を見て思わず叫んだ。敵は、前方に位置するセイラのジムではなく、後方に位置していたハヤトのガンキャノンを狙い撃ったのだ。敵の一連射は、そのうちの2弾までがハヤトのガンキャノンに直撃をした。
「うわぁああああぁっ!」
 ハヤトの慌てふためく声が、ヘッドセットを通じて耳朶を打つ。絶叫に近い声だろうが、音量調節されたヘッドセットには抑揚のない声でしか届かない。それでもハヤトの狼狽は手に取るように伝わる。
「カイ!ハヤトを!!」
 それだけを言うとセイラは、機体をグンッ!と加速した。自分だけで押さえ込める相手とは思えなかったが、ハヤトを一人で下がらせる気にはなれなかった。空域が、完全にクリアになったかどうかに確信が持てなかった。
 ザクマシンガンの1発や2発でガンキャノンが致命傷を負うとは思わなかったが、これ以上の被弾は危険だった。サイド7では、至近距離から砲弾を浴びせられて複数のガンキャノンがザクマシンガンによって失われている。ガンキャノンは、ガンダムやジムよりも重装甲モビルスーツではあったが、永遠の被弾に耐えるわけではなかったし、全ての箇所が重装甲というわけでもなかった。
「任されて!セイラさん、無茶はダメだよ!」
 カイが、メガビームを乱射しながらハヤトのフォローに入る。
 セイラは、大きめの岩塊の陰に入り込もうとするザクにメガビームを送り込みながら距離を詰めた。2度と敵が、後方のカイやハヤトのガンキャノンにちょっかいを出そうと考えないように。
 そして、正対した敵にビームを矢継ぎ早に送り込んだ。
「!?」
 しかし、そのビームは正対しているはずのザクに命中しなかった。至近を通過してはいるが、それでさえ機体に干渉するほどではなかった。
「あたらない?」
 焦りの感情が、セイラを蝕み始めた瞬間、ザクマシンガンの砲口が短く明滅した。
「はっ!」
 射撃に夢中になるあまり、回避機動が疎かになったことに気がつき、一瞬早くシールドを差し出し、直撃を躱す。直後、シールドに一撃、サイドモニターに曳航弾が走るのと同時に更に一撃がシールド上ではじけ、不意にシールドの上部が千切れ飛んだ。
「くっ・・・」
 思わず歯を食いしばり、息が漏れる。フットレバーを思い切りよく踏み込む。メインスラスターが反応良くその推力を全開にし、ジムを飛び上がらせるように上昇させ、シートに沈み込ませるように強烈なGが、セイラのしなやかな体に負荷を掛ける。鉛のように重くなった腕を操縦桿からはがされないようにしっかり固定し、あまつさえトリガーに触れて敵の進撃路へとビームを放つ。
 ベテランのパイロットですら驚きを隠さないと思われる機動をセイラは、実現させていた。もう誰も傷つけさせない!セイラの強固な意志がそれを可能にさせていた。

 ルドン中尉は、ザクを敵に対して正対させると機体各所に装備されたサブスラスターをフルに使って機位を常に、そして不規則に変えた。ザク同士の模擬戦闘でも直進機動は戒められるべき機動だったが、ザクマシンガンの弾速であれば発射の瞬間に機位を変えることで直撃を逃れることが可能だった。しかし、メガビーム相手では直進機動は、ほんの僅かな時間でさえ命取りだった。
「喰らえッ!」
 ルドン中尉は、至近を走り抜けるメガビームの存在を無視し、射撃をした。どのみち、直撃した瞬間に勝負は決まるのだ。むろん、射撃しながらも機位を変える。
 ルドン中尉は、常よりも長めに射撃ボタンを押し込んだ。
 2発を直撃させた赤い奴が、もう1機に守られるように後退していくのを見ていたからだ。連邦のモビルスーツは、ザクより余程頑強に作られているらしかった。青い奴は、赤い奴よりはほっそりとした作りではあったが、それを補うように手には自在にかざせる盾を装備していた。
 案の定、敵は盾の陰に隠れた。
 1発目が命中し、2発目がほぼ同じ箇所に命中した瞬間盾が千切れた。
(同一箇所に集弾出来れば・・・)
 ルドン中尉は、一気に撃破を試みるべくザクマシンガンのトリガーを更に押し込んだ。
「ちっ!」
 だが、敵にそれ以上直撃を与えることは出来なかった。青い奴は、機体を上へと跳ね上げたのだ。パイロットに随分負担を掛けたに違いないと思える機動のせいでルドン中尉の放った射撃は、全てが無駄になった。発射ボタンを押し込んだまま砲口を振ったが、青い奴の機動はやはりザクを遙かに凌駕していた。模擬戦闘を通じて身体に覚え込ませたことが逆効果になった。
 しかも、回避しながら放たれてきたビームが、ルドン中尉にも回避を強制させる。想像以上の加速、ビーム火器での反撃、それらがルドン中尉の射撃を不安定なものにさせ、それ以上の直撃を得られなかった。
 更に悪いことには、リースフェルト中尉のモビルスーツ隊を壊滅させた2機が、戦闘に加入してきた。青い奴にこれ以上の被弾を許さないという強固な意志が感じ取れる牽制射撃が、送り込まれてきた。
「ダメだ・・・」
 ルドン中尉から急速に意志が失われていった。
 軍に入ってから一度たりとも感じたことのなかった脱力感、虚無感、そういった類の負のエネルギーがルドン中尉を覆い尽くした。
 ゴウッ!
 ノーマルスーツを着た身体が感じることのないはずの豪風にさらされた・・・
 それが、ルドン中尉が感じた最後の感覚だった。痛痒は一切感じなかった。

「アムロ?」
 セイラは、他のザクと同じように爆発をして、消えていくザクをモニターに見ながら呟くように言った。ガンダムが、スッレガー中尉のジムを遙か後方に置き去り接近しつつあった。まだ、かなりの距離があるが、そこからアムロは、ビームを直撃させたのだ。
「大丈夫ですか?セイラさん!」
「ええ、大丈夫よ。機体には、被弾しなかったわ。心配しなくってよくてよ・・・」
 そして、声には出さずに続けた。
(彼は、戦いを止めていたのよ・・・)
 セイラは、自身を危ういところへ追い込んだザクのパイロットの最後の感情を読み取れたような気がしていた。いっそ、最後まで憎悪を迸らせ続けてくれていれば良かったのに。そうすれば、こんな後味の悪い感情を感じずに済んだのだ。
 確かに、アムロが駆けつけていなければ自分自身がもっと危うくなっていたに違いないことは理解できていた。彼は、紛れもなく危険なパイロットだった。あのランバ・ラルやマチルダ中尉を戦死させた新型機のパイロットと同じ種類のパイロットだったのは間違いない。
(でも、彼は戦いを止めていたわ・・・)
 最後にセイラは、もう一度同じ思いを心の中だけで呟いた。
(生身の戦いだったら・・・顔が見えていたら・・・)
 そうしたら、自分たちは彼を殺さずに済んだかも知れない。
「帰還しますよ?セイラさん」
 セイラの中に何かを感じたのだろう。アムロが、言葉尻を少し変える。
「了解、アムロ」
 そう言うとセイラは、頭の中から感傷的な部分を無理矢理に追い出した。
 戦いを止めたからといって彼が生きながらえることができないことが理解できたからだ。そう、ランバ・ラルのように。戦争とは理不尽なものなのだ。

fin

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セイラ出撃!(2) [ガンダム(short novel)]

(1)は、こちらから・・・

 ローランド・ヘッグ曹長は、ルドン中尉の指示のもとビットマン少尉と共にブルーの新型機へと迫った。しかし、2機で挟撃するはずが、赤い機体からの支援砲撃が半ば偶然を伴ってビットマン少尉のザクの片足を吹き飛ばしたことによって脆くもその目算は崩れ去った。
 ビットマン少尉が機体を翻す中、ヘッグ曹長は、青い機体に向けて120mm砲弾を速射した。
 回避のそぶりを見せる青い機体に対し、ヘッグ曹長は、120mm砲弾を面で放った。連続した直撃を狙うのではなく一撃を加えバランスを崩したところへ追撃を加え、止めを刺すためだった。狙いは、当たった。みごとに1発が、敵のシールド上に炸裂した。
 しかし、そこまでだった。
 敵は、ヘッグ曹長が思い描いたほど姿勢を崩さなかったのだ。追撃を加えようとしたが、それよりも先に頭部から銃撃を加えてきた。加えて、後方から赤い奴が支援砲撃を加えても来た。
 2機を同時にザクで相手取るわけにはいかなかった。
 少なくともビットマン少尉が、体勢を立て直してから更なる攻撃を加えるべきだった。幸い、手近に充分な大きさではないが一時的に身を潜めることが出来る程度の岩塊があった。ヘッグ曹長は、ザクをその岩塊の陰へと飛び込ませた。モニターには、岩塊越しに敵の想定位置がプロットされている。残弾を確認する。初めて新型機と遭遇した興奮のせいでやや多めに消費していたが、弾倉を交換するほどではなかった。
「ザクより速い機体だ・・・」
 ヘッグ曹長が、そう独りごちたとき、不意に岩塊が膨れあがった。
「!?」
 ヘッグ曹長が、最後に目にした物は膨れあがった岩塊からほとばしり出る淡いピンクの光だった。

「ザク1機撃破!カイ、右手に下がったザクに注意して!」
 セイラは、最大パワーで発射したビームの一撃で岩塊ごとザクを撃破した。ザクのパイロットは、しばし自分が安全になったと思ったに違いなかった。だが、パワーを最大にまで上げたビーム火器にとって岩塊など発泡スチロールほどの障壁でしかなかった。
(凄い・・・マチルダさんの説明通りだわ・・・)
 喝采こそ上げなかったが、セイラは感嘆していた。
 このジムと共に搬入されてきたビーム火器の説明を受けたときのことをふと思い出す。
「普段は絞って使って。最大まで上げれば坊やのガンダムの物より凄いパワーよ。でも、最大では連続射撃は出来ないし、3射もすればエネルギーアップになるわ。ここぞ、というときに」
 セイラの顔を覗き込みながら片目を瞑ってマチルダ少尉は説明したものだ。
 キレイな人だった・・・と、思う。
「任されて!セイラさん。大丈夫かい?」
 軽口を叩きながらもカイは、気遣ってくれる。普段のカイは、自分を悪ぶって見せているだけなのだ。本質のところは、どちらかといえば気の弱い、人のことを思いやることの出来る少年なのだ。
「ええ、心配しなくって良くてよ」
 そういいながらもセイラは、脚を吹き飛ばされたザクではなく。緒戦で姿をくらませたザクを探し求めていた。不用意に接近してきて被弾したザクなどより余程危険な相手だった。
 アムロとスレッガー中尉は、無難に戦いを進めているらしい。
 もっとも、アムロは違う。そして、アムロと一緒に戦っている以上スレッガー中尉も心配する必要はなかった。
「ハヤト、そちらのザクは?」
「下がりました、いやにあっさりと・・・」
 ハヤトが、不安げに言う。
「2時の方向、行くわ」
 セイラは、敵の潜んでいると思われる方向を指示した。

「少尉は、脚を吹き飛ばされ、ヘッグとポルトノフがやられました。青い奴にです」
 ラッザーリ曹長は、肩で息をしながら報告した。
 ビットマン少尉の小隊を支援しようと機動したが、そうはさせまいとした赤い奴の砲撃とビーム射撃を躱すので精一杯だった。射程内に接近することすら出来なかった。通常弾頭の砲撃と共に放たれてくるビーム砲撃は特に険呑だった。直撃することはすなわち死を意味したからだ。
「見えていた」
 敵を不意打ちすべく様子を伺っていたのだが、その機会は一度も訪れなかった。敵の位置関係は、絶妙だった。
 ザク同士の模擬戦闘であれば、つけいる隙は必ず出来るはずだった。だが、敵の新型機はザクの出しうる推力を軽く凌駕していた。もっともルドン中尉の行動を制約したのは、ビーム火器の存在だった。連邦軍が、モビルスーツに装備させているビーム火器の威力は、チベ級の残骸を一撃の下に貫いたことを考えればムサイ級のそれに匹敵するものだと思わずにはいられなかった。ザクならば、直撃せずとも掠めただけで致命傷を負うレベルだと思えた。
 混戦の中に異方向から一気に接近機動を行い、痛撃を加える戦法は死を意味した。
 何しろ最終接近は、直線機動にならざるを得ないからだ。
 作戦立案が間違っていると気がついたときには、貴重なザクを2機も失っていた。
(どうする?)
 自問しながらもルドン中尉には、考えている時間はそう多くなさそうだということが分かっていた。
 ルドン中尉は、敵の2機を相手取っているリースフェルト中尉の戦っている宙域を一瞥した。6対2で戦っているのにもかかわらずリースフェルト中尉の部隊も苦戦を強いられているらしかった。次々に味方の識別信号が消えていく。
 新型機を支給されて自分たちよりも余程有利に、戦力比的にも、戦闘を進められるはずのリースフェルト中尉ですらそうなのだ。
 自分たちは、連邦軍のモビルスーツを甘く見すぎていたらしい。
「うわぁぁぁぁっ・・・」
「中尉・・・」
 ビットマン少尉の断末魔の声がミノフスキー粒子の中、不鮮明ながら聞こえてきた。
 ラッザーリ曹長が、不安そうに言う。
「狼狽えるな!」
 ルドン中尉は、叱責しながらもジオンのコロニーを二度と見ることはなかろうと覚悟した。

「1機撃墜!」
 カイの喝采を含んだ声が耳に届く。
 カイが損傷させたザクを補足し、追撃を掛け、撃破したのだ。右足を失ったザクは、バランスを取るのが精一杯だったらしく、カイの正確とは言えない狙撃を避けきれなかったのだ。
「カイ、気をつけて!来るわ!」
 セイラは、ザクが解放していく核融合炉のエネルギーの光の向こうに機動する2機のザクを見過ごさなかった。そのうちの1機は、姿を見せずにいたザクだ。
 セイラは、再びエネルギーを絞ったビームライフルでその空間を狙い撃った。未だザクの拡散させた核融合炉から解放されたエネルギーが収まりきらないなかでだ。何かに照準したわけではなかった。敵の機動を制するためだった。
 半秒の間に3射を送り込んだ。
 ザクの装備するマシンガンに比べれば随分と間延びした射撃だったが、ビーム火器としては破格の発射速度だった。
 怯えたザクが、スラスターを噴射して回避機動をする。
 そのスラスター光が、ザクの位置を正確に炙り出してくれた。だが、それは1機分でしかなかった。やはり、もう一機は手練れなのだ。危険だった。

 当てずっぽうだと分かっていても、それは恐怖だった。だからだ、ラッザーリ曹長は、ザクの機体を思い切りよく回避させたのだ。
 ゴウンッ!
 480トンにも及ぶ推力がいちどきにザクを跳ね上げさせる。
「畜生!」
 ラッザーリ曹長は、歯を食いしばりながら悪態をついた。青い奴の射撃を躱したつもりだったが、自分の位置を暴露したことに気がついたからだった。後方に控える2機の赤い機体からビームが伸びてくる。それは、明らかに自分を指向してきていた。
「くはっ・・・」
 上に跳ね上げた機体を強制的に止めるために機体を捻りメインスラスターを逆の方向へと最大噴射する。くるりと反転した機体がミシミシと悲鳴を上げる。ザクの限界に近い機動だった。
「なめる・・・」
 機体をいったん沈め、最大推力で一気に距離を詰めようとした瞬間、ラッザーリ曹長の意識は消え失せた。ザクの右肩からコクピット、そして背部へと走り抜けたメガ粒子が、ラッザーリ曹長に何が起こったかを知覚させることなく原子にまで還元した瞬間だった。先に失われたザクと同様な光がその空間を埋め尽くす。

「凄い!」
 ハヤトは、セイラの射撃に感嘆せずにはいられなかった。自分とカイの射撃は、敵を掠めることすら出来なかった。なのに、セイラは、たったの一撃でザクを射貫いたのだ。
(悔しい・・・)
 アムロどころか、女性のセイラさんにすら自分は敵わないのか?自分の方が、戦闘に多く参加しているのに、経験も多いはずなのに・・・。
 それは、数瞬のはずだった。
 だが、その数瞬、ハヤトのガンキャノンは直線機動を行っていた。
「ハヤト、4時!」
 セイラの叱責のような注意喚起が耳に届いたときには遅かった。撃破したザクの爆発光に紛れるように切り込んできたザクが、砲撃を開始していた。




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セイラ、出撃!(1) [ガンダム(short novel)]

「セイラ、行きます!」
 言い終わった瞬間激しい衝撃がセイラに加わった。シートに無遠慮に押し込まれるのを感じながらも計器から目を離さない。
(慣れていくのね・・・)
 ペガサス級1番艦の左舷デッキから一気に宇宙空間へ放り出されながらセイラは思った。モビルスーツの発艦が、もう少しスムーズにならない物かしら?と思う瞬間だ。
「セイラさん、カイさんの前方に位置して下さい、敵、いると思いますから・・・」
 既に発艦を終え、前方に展開しつつあるアムロが言う。
「了解」
 いつもなのだ、アムロはあたしのことを気に掛けすぎていると思う。あたしが、女性だから?でしょうね・・・と、思う。
 機体に軽くクロールを掛けてスラスターを僅かに噴射する。
 クンッ
 心地よいGが、体に感じられる。
 センシングシステムには、未だ何も引っ掛かってきてはいない。けれど、アムロの言うように敵はいるに違いなかった。それは、計器類に頼らなくてもセイラ自身にもよく分かった。いや、分かると言うよりは感じるといった方が正しい。
 サイド6への道中、時間を短縮するためには通過せざるを得ないアルフィン暗礁域、ここはジオンの哨戒部隊が網を張っているとされる宙域の最右翼だった。従来型の連邦軍部隊なら避けて航行せざるを得ない宙域だった。
 けれど、私たちは違う。
「カイ、ハヤト、後を任せるわね」
「あいよ、セイラさん!」
「了解です、セイラさん」
 後方監視モニター内に赤い機体を見つめながらセイラは、言った。更に後方にはホワイトベースがますます小さくなりつつあった。
(アムロ・・・)
 セイラには、かすかなアムロの焦りが分かった。
 アムロが、ペアを組んだスレッガー中尉のせいだ。中尉は、決して足手まといになるようなパイロットではなかったけれど軽挙に過ぎるところがある。それが、少年の域をまだ出ないアムロの癇に障るのだ。
 ブリーフィングどおり、5キロ前進したところで機体を左へと振り向ける。
 いよいよ暗礁域へと乗り入れるのだ。
 同時に額の中央、奥を突き刺すようなかすかな痛みがほんの僅かに増す。意識を奪われるほどではない。むしろ、意識自体が研ぎ澄まされる感覚があった。
(いるわ・・・)
 セイラは、独りごちた。
 ジムのセンシングシステムは、未だ何も敵の存在の兆候を示さない。しかし、それには反して、セイラには分かった。
 機体の右前方、ジオンのチベタイプ巡洋艦の残骸、それは格好の身の潜め場所だった。そこは、岩礁などよりもセンシングシステムを欺瞞するのには向いてる。何しろ、金属反応そのものを同化させることが出来るからだ。
(アムロは?)
 ちらりとセイラは、メインスクリーンの中にアムロの姿・・・いや、ガンダムの機影を求めた。ガンダムは、スレッガー中尉のジムと共にあった。しかし、彼らはチベの残骸に注意を払っている様子はなかった。無防備なのではない、彼らは、いやアムロは、他の何かに注意を向けているのだ。
 セイラは、シールドで制止を指示し、その一方でビームライフルをチベの残骸へと指向した。
 後方モニターの中で2機のガンキャノンが相次いで静止するのを認めてセイラは、ビームライフルのトリガーボタンに軽く触れた。

「?」
 ジュスタン・ルドン中尉は、ザクのコクピットの中で連邦軍のモビルスーツが接近してくるのをモニターの中で注視していた。自分たちの方には、旧タイプを含めて3機が接近してきていた。指揮官のアルフォンソ・ベセーラ少佐の方には、新型機が2機。どちらにしろ、自分たちの数の優位は動かなかった。
 だが、攻撃位置の遙か手前でその碧い新型機は前進を止めたのだ。
(感付かれた?)
 ふと思う。しかし、直ちに否定する。厚いチベの装甲は連邦軍のいかなるセンシングシステムでも透過することは不可能なはずだった。ならば赤外線は?これも無理だ。チベは、太陽光を十分に浴びてその表面温度を数百度にまで上げている。ザクの廃熱は、その中に完全に紛れ込んでいるはずだった。
「ふんっ、臆病な奴・・・!!・・・」
 ルドン中尉は、最後まで言葉にすることが出来なかった。
 碧い機体は、いきなりビームを放ってきたのだ。遅れて赤い機体もビームを放ってきた。それは、まっすぐにチベへと向けられてきた。
「散開!ウェポンズフリー、敵を撃破しろ!!」
 ルドン中尉は、命令すると同時に機体を真下へと下げた。ザクの得意とする機動ではなかったが敵のビーム攻撃から逃れるには適切な機動のはずだった。
「うわぁぁあああ・・・・」
 ひときわ大きな爆発が味方の悲鳴と共に広がる。チベの残骸がブルブルと震える。
 ごおっ!ガツンッ!!
 赤黒い炎が一瞬ザクにまとわりつき、何かごつい物がザクの機体をノックしていく。
 敵のビームが、チベの残骸の中に残っていた対艦ミサイルを爆発させたのだ。
「ランサム曹長!!」
 声の主に無駄と分かっていながらもルドン中尉は、呼びかけた。同時に機体を反転させ最大加速を掛ける。ぐいっと体がシートに押しつけられる。それを追いかけるように光が広がってくる。
「畜生!」
 敵の戦艦をも一撃で大破させる対艦ミサイルの爆発に巻き込まれたのだ。ザクが、無事であるわけがなかった。
「中尉、ランサムの野郎が・・・」
 ランサム曹長機の喪失をビットマン少尉が知らせてくる。
「分かっている、敵が来るぞ!気取られるなっ!」

「カイ、付いてきて。ハヤトは、支援を!」
 狙ったわけではなかったが、セイラが放ったビームの一撃はチベの残骸に残されていた爆発物を誘爆された。その爆発は、セイラが予想だにしない規模だった。そして、その爆発が敵を混乱させる以上の効果があったことを理解するのに十分な爆発が更に沸き起こった。
 そして、思った通りザクがチベの残骸から四方へと散るのが見て取れた。
 カイが、そのうちの1機へとビームを送るのが見えた。2射、3射と送り込むが全てが外れていく。敵の1機が射弾を送ってくるがこの距離では脅威にならなかった。
 アムロ達の方でも戦闘が始まっているらしく戦闘光が明滅しているのが見てとれた。
 チベから四方へ散ったザクは全部で5機だった。
 少なくはないが、多いというわけでもなかった。
 ましてや、敵は混乱している。
 グンッ!とジムを加速させながらセイラは、射弾を送ってくるザクの1機に照準を合わせていく。回避は、甘いと言うよりほかなかった。ザクのパイロットは、未だ安全距離に自分たちがあると思っているに違いなかった。無理もないわ、と思う。彼らは、ビーム兵器の恐ろしさを理解していないのだ。
「そこっ!」
 セイラは、トリガーに2度軽く触れた。
 セイラ用に極限にまで軽く調整されたトリガーボタンは、セイラの繊細なタッチに充分すぎるほど応えてくれた。
 ギンッ!ギンッ!!
 ガンダムやガンキャノンが装備するビームライフルよりもパワーが絞られているが発射速度の向上が図られたビームライフルは、淡いピンクのビームを短い間隔で吐き出した。
 1発目が、肩口に命中し頭部を吹き飛ばし、2発目が胸部を薙ぎ払う。次の瞬間にはザクは極小の太陽へと姿を変える。
「セイラさん、左!」
 カイが、叫ぶ。
 右側へと散開したザクは、ハヤトの砲撃が良く牽制してくれている。
 既にジムのセンシングシステムは、ザクの動きをプロットしてくれていた。2機が、岩礁の陰を利用して接近しつつあった。
「下がって、カイ!」
 ガンキャノンは、ジムと違って接近戦に不向きだった。不用意にザクの接近を許すわけにはいかなかった。
「あいよ!セイラさん」
 軽口を叩きながらもカイは、支援砲撃をするのを忘れない。ザクが、接近して来るであろう空間に向けてキャノン砲弾を送り込む。
(もう1機は?)
 キャノン砲弾の曳光を目で追いかけながらセイラは、5機目のザクを探す。
 キャノン砲弾が、偶然を伴って岩礁から姿を見せたザクに襲いかかる。ザクの右足が、吹き飛び機体バランスを崩す。そのザクに目を奪われたのは僅かな時間だったはずだったが、その隙を見澄ましたようにもう1機のザクが岩礁から姿を見せるやいなやマシンガンを撃ち放ってきた。
(くっ!)
 狙撃するというよりばらまくように放ってきた全部を回避するのは難しかった。1発をシールドで弾く。
 グワッ!
 衝撃は、地上で受けたときよりも大きく感じられた。
「はっ!」
 思わず息が漏れる。
「セイラさんっ!」
 カイの慌てた声が耳に届く。
「大丈夫!」
 応えながらセイラは、機体バランスを取り戻そうと四肢を機敏に動かす。更に命中弾を得ようとザクが射弾を送ってくる。それに対してセイラは、ジムの頭部を振り向けバルカン砲で牽制する。更に、そこへカイが支援砲撃を寄越してくれる。ザクは、やや小振りな岩塊の陰へと身を潜める。
 その刹那、セイラは左の親指でビームライフルのエネルギー調整ボタンを最大へとスライドさせ、同時に岩塊に照準し発射した。


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補給物資・・・if [ガンダム(short novel)]

「モルモット部隊として・・・コア・ブースターを送るのが至当なのかどうか?」
ウッディ大尉は、具申した。
「では、大尉はコア・ブースターは至当ではないと?」
「ええ、ジムの方がより実験という意味では相応しいと思います」
「何故そう思うのかね?」
 技術士官は、尋ねた。
「今後、戦力を整備する際に、コア・ブースターは主戦力とはなり得ないでしょう。元々が戦時急造の機体です。そういったモノを、せっかくのモルモット部隊に送る意義は少ないと考えます。更に、コア・ブースターの生残性は、きわめて低い。このような機体に極めて希少性の高いパイロットを搭乗させるのは・・・」
 もとが脱出用ポッドにブースターを取り付けただけで、装甲などなきに等しい。防御は、その高速性能だけと言って良かった。被弾には極めて脆弱であることは誰の目にも明らかだった。
「確かに・・・大尉の言うことにも一理はありますな・・・」
「ふむ・・・だが、これのテストも行わねばならない」
 それまで発言を控えていた将官の1人が言った。階級は、この場にいる者の中で最も高かった。
「大尉の意見を入れるのならば、コア・ブースターは、空母機動部隊の精鋭部隊に配属しても良いのではないでしょうか?コーウェン少佐」
「空母機動部隊?たとえば、ガルバルディか?」
 コーウェン少佐と呼ばれた男はすぐさまに1隻の空母の名前を言った。
「ええ、かの艦には一連の戦闘を生き残った多くのパイロットがおります故・・・」
「確かに・・・」
 コーウェン少佐は、しばし考えた。「コア・ブースターは何機が完成している?」
「初期生産機も入れるならば2個飛行中隊が編成可能です、少佐」
 技術士官の1人が直ちに答えた。「1機ないし2機を運用するよりは余程精度の高い部隊運用記録が取れるでしょう」
「ふむ・・・例の少尉のことを考えれば、あの部隊には、コア・ブースターは向かぬのかもしれないな」
「はい、量産機が、それ以上の性能を発揮できるのか?それとも、それなりの機体を用意せねば戦果を上げられないのか?この実験の方が意義が高いかと・・・」
 RX-78型が、戦場に多数配備できないことは明白だった。だからこそ、量産型としてのRGM-79が、正式採用されたのだ。
 パイロット次第で、その量産型が想定された以上の戦果をもたらすことが出来るなら・・・それは、有益であった。
 それに、旧来型の部隊には旧来型の装備が必要であることの証左になるかもしれなかった。それは、全く別の意味で軍にとって有益なことだった。
「では、ウッディ大尉の進言を受けることにしよう」
 コーウェン少佐は、一同を見回し言った。「第13独立戦隊には、ジムの先行量産機を4機送り、データ集積に当たらせる。コア・ブースターは、新たに飛行隊を編成しこれをガルバルディに配備させることとする」

 こうして、第13独立戦隊には、ガンダムタイプ、ガンキャノンタイプに加えてジムタイプが配備されることになった。

「これで、あの子達の生き残る確率は高まると思うわ」
 マチルダ中尉は、ミデアに搬入されていくブルーの機体を見つめながら言った。第13独立部隊に配備されるジムは、既に正式な配色として決められた赤を基本にしたカラーとは違えてあった。「大変だったでしょう?大尉」
「まあな・・・君の言うことはよく分かる、だから苦労は厭わないさ・・・」
「彼らには・・・生き残って欲しいの」
「だが、君がムリをしてはいけない。君のことを大事に思っている人間がここにいることを忘れてもらっては困る」
「ええ・・・」

 喧噪の中、2機目のジムの搬入が始まった。それが終われば、マチルダは、すぐに飛び立つつもりだった。一刻でも早く、この機体を届けたかったからだ。


・・・ブルーのジム、後に木馬の碧い魔女として怖れられることになるパイロットが搭乗することになる機体だった。
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