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セイラ出撃!(2) [ガンダム(short novel)]

(1)は、こちらから・・・

 ローランド・ヘッグ曹長は、ルドン中尉の指示のもとビットマン少尉と共にブルーの新型機へと迫った。しかし、2機で挟撃するはずが、赤い機体からの支援砲撃が半ば偶然を伴ってビットマン少尉のザクの片足を吹き飛ばしたことによって脆くもその目算は崩れ去った。
 ビットマン少尉が機体を翻す中、ヘッグ曹長は、青い機体に向けて120mm砲弾を速射した。
 回避のそぶりを見せる青い機体に対し、ヘッグ曹長は、120mm砲弾を面で放った。連続した直撃を狙うのではなく一撃を加えバランスを崩したところへ追撃を加え、止めを刺すためだった。狙いは、当たった。みごとに1発が、敵のシールド上に炸裂した。
 しかし、そこまでだった。
 敵は、ヘッグ曹長が思い描いたほど姿勢を崩さなかったのだ。追撃を加えようとしたが、それよりも先に頭部から銃撃を加えてきた。加えて、後方から赤い奴が支援砲撃を加えても来た。
 2機を同時にザクで相手取るわけにはいかなかった。
 少なくともビットマン少尉が、体勢を立て直してから更なる攻撃を加えるべきだった。幸い、手近に充分な大きさではないが一時的に身を潜めることが出来る程度の岩塊があった。ヘッグ曹長は、ザクをその岩塊の陰へと飛び込ませた。モニターには、岩塊越しに敵の想定位置がプロットされている。残弾を確認する。初めて新型機と遭遇した興奮のせいでやや多めに消費していたが、弾倉を交換するほどではなかった。
「ザクより速い機体だ・・・」
 ヘッグ曹長が、そう独りごちたとき、不意に岩塊が膨れあがった。
「!?」
 ヘッグ曹長が、最後に目にした物は膨れあがった岩塊からほとばしり出る淡いピンクの光だった。

「ザク1機撃破!カイ、右手に下がったザクに注意して!」
 セイラは、最大パワーで発射したビームの一撃で岩塊ごとザクを撃破した。ザクのパイロットは、しばし自分が安全になったと思ったに違いなかった。だが、パワーを最大にまで上げたビーム火器にとって岩塊など発泡スチロールほどの障壁でしかなかった。
(凄い・・・マチルダさんの説明通りだわ・・・)
 喝采こそ上げなかったが、セイラは感嘆していた。
 このジムと共に搬入されてきたビーム火器の説明を受けたときのことをふと思い出す。
「普段は絞って使って。最大まで上げれば坊やのガンダムの物より凄いパワーよ。でも、最大では連続射撃は出来ないし、3射もすればエネルギーアップになるわ。ここぞ、というときに」
 セイラの顔を覗き込みながら片目を瞑ってマチルダ少尉は説明したものだ。
 キレイな人だった・・・と、思う。
「任されて!セイラさん。大丈夫かい?」
 軽口を叩きながらもカイは、気遣ってくれる。普段のカイは、自分を悪ぶって見せているだけなのだ。本質のところは、どちらかといえば気の弱い、人のことを思いやることの出来る少年なのだ。
「ええ、心配しなくって良くてよ」
 そういいながらもセイラは、脚を吹き飛ばされたザクではなく。緒戦で姿をくらませたザクを探し求めていた。不用意に接近してきて被弾したザクなどより余程危険な相手だった。
 アムロとスレッガー中尉は、無難に戦いを進めているらしい。
 もっとも、アムロは違う。そして、アムロと一緒に戦っている以上スレッガー中尉も心配する必要はなかった。
「ハヤト、そちらのザクは?」
「下がりました、いやにあっさりと・・・」
 ハヤトが、不安げに言う。
「2時の方向、行くわ」
 セイラは、敵の潜んでいると思われる方向を指示した。

「少尉は、脚を吹き飛ばされ、ヘッグとポルトノフがやられました。青い奴にです」
 ラッザーリ曹長は、肩で息をしながら報告した。
 ビットマン少尉の小隊を支援しようと機動したが、そうはさせまいとした赤い奴の砲撃とビーム射撃を躱すので精一杯だった。射程内に接近することすら出来なかった。通常弾頭の砲撃と共に放たれてくるビーム砲撃は特に険呑だった。直撃することはすなわち死を意味したからだ。
「見えていた」
 敵を不意打ちすべく様子を伺っていたのだが、その機会は一度も訪れなかった。敵の位置関係は、絶妙だった。
 ザク同士の模擬戦闘であれば、つけいる隙は必ず出来るはずだった。だが、敵の新型機はザクの出しうる推力を軽く凌駕していた。もっともルドン中尉の行動を制約したのは、ビーム火器の存在だった。連邦軍が、モビルスーツに装備させているビーム火器の威力は、チベ級の残骸を一撃の下に貫いたことを考えればムサイ級のそれに匹敵するものだと思わずにはいられなかった。ザクならば、直撃せずとも掠めただけで致命傷を負うレベルだと思えた。
 混戦の中に異方向から一気に接近機動を行い、痛撃を加える戦法は死を意味した。
 何しろ最終接近は、直線機動にならざるを得ないからだ。
 作戦立案が間違っていると気がついたときには、貴重なザクを2機も失っていた。
(どうする?)
 自問しながらもルドン中尉には、考えている時間はそう多くなさそうだということが分かっていた。
 ルドン中尉は、敵の2機を相手取っているリースフェルト中尉の戦っている宙域を一瞥した。6対2で戦っているのにもかかわらずリースフェルト中尉の部隊も苦戦を強いられているらしかった。次々に味方の識別信号が消えていく。
 新型機を支給されて自分たちよりも余程有利に、戦力比的にも、戦闘を進められるはずのリースフェルト中尉ですらそうなのだ。
 自分たちは、連邦軍のモビルスーツを甘く見すぎていたらしい。
「うわぁぁぁぁっ・・・」
「中尉・・・」
 ビットマン少尉の断末魔の声がミノフスキー粒子の中、不鮮明ながら聞こえてきた。
 ラッザーリ曹長が、不安そうに言う。
「狼狽えるな!」
 ルドン中尉は、叱責しながらもジオンのコロニーを二度と見ることはなかろうと覚悟した。

「1機撃墜!」
 カイの喝采を含んだ声が耳に届く。
 カイが損傷させたザクを補足し、追撃を掛け、撃破したのだ。右足を失ったザクは、バランスを取るのが精一杯だったらしく、カイの正確とは言えない狙撃を避けきれなかったのだ。
「カイ、気をつけて!来るわ!」
 セイラは、ザクが解放していく核融合炉のエネルギーの光の向こうに機動する2機のザクを見過ごさなかった。そのうちの1機は、姿を見せずにいたザクだ。
 セイラは、再びエネルギーを絞ったビームライフルでその空間を狙い撃った。未だザクの拡散させた核融合炉から解放されたエネルギーが収まりきらないなかでだ。何かに照準したわけではなかった。敵の機動を制するためだった。
 半秒の間に3射を送り込んだ。
 ザクの装備するマシンガンに比べれば随分と間延びした射撃だったが、ビーム火器としては破格の発射速度だった。
 怯えたザクが、スラスターを噴射して回避機動をする。
 そのスラスター光が、ザクの位置を正確に炙り出してくれた。だが、それは1機分でしかなかった。やはり、もう一機は手練れなのだ。危険だった。

 当てずっぽうだと分かっていても、それは恐怖だった。だからだ、ラッザーリ曹長は、ザクの機体を思い切りよく回避させたのだ。
 ゴウンッ!
 480トンにも及ぶ推力がいちどきにザクを跳ね上げさせる。
「畜生!」
 ラッザーリ曹長は、歯を食いしばりながら悪態をついた。青い奴の射撃を躱したつもりだったが、自分の位置を暴露したことに気がついたからだった。後方に控える2機の赤い機体からビームが伸びてくる。それは、明らかに自分を指向してきていた。
「くはっ・・・」
 上に跳ね上げた機体を強制的に止めるために機体を捻りメインスラスターを逆の方向へと最大噴射する。くるりと反転した機体がミシミシと悲鳴を上げる。ザクの限界に近い機動だった。
「なめる・・・」
 機体をいったん沈め、最大推力で一気に距離を詰めようとした瞬間、ラッザーリ曹長の意識は消え失せた。ザクの右肩からコクピット、そして背部へと走り抜けたメガ粒子が、ラッザーリ曹長に何が起こったかを知覚させることなく原子にまで還元した瞬間だった。先に失われたザクと同様な光がその空間を埋め尽くす。

「凄い!」
 ハヤトは、セイラの射撃に感嘆せずにはいられなかった。自分とカイの射撃は、敵を掠めることすら出来なかった。なのに、セイラは、たったの一撃でザクを射貫いたのだ。
(悔しい・・・)
 アムロどころか、女性のセイラさんにすら自分は敵わないのか?自分の方が、戦闘に多く参加しているのに、経験も多いはずなのに・・・。
 それは、数瞬のはずだった。
 だが、その数瞬、ハヤトのガンキャノンは直線機動を行っていた。
「ハヤト、4時!」
 セイラの叱責のような注意喚起が耳に届いたときには遅かった。撃破したザクの爆発光に紛れるように切り込んできたザクが、砲撃を開始していた。




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